コラム

快適暮らし術

整えない、隠さない。
でも片づく収納術(1)

住まいは家族が集い、語らい、心地良さを追求すべき場所です。「快適な暮らし術」をテーマに、収納、インテリア、家具、グリーンなどの専門家をお招きして、居心地が良く快適な住まいのテクニックをご紹介してまいります。

シリーズ第1回のテーマは「収納術」です。本質を突いた片づけの考え方をベースに実践的な収納術を提案、テレビや雑誌でも人気の整理収納アドバイザー、水谷妙子さんにお話をお聞きしました。3人のお子さんを育てるワーキングマザーでもある水谷さんの説く、暮らしを快適にする収納術とは。3回にわたってお送りします。

水谷妙子(みずたに たえこ)

整理収納アドバイザー1級。夫と7歳の娘、5歳の息子、3歳の息子の5人暮らし。東京都在住。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業後、無印良品で生活雑貨の商品企画・デザインを13年間務める。手がけた商品は500点超。2018年「ものとかぞく」を起業し、個人宅の整理収納サービスやお片づけ講座を行う。雑誌やWEB、テレビで活躍中。ものについての幅広い知識や、独自の着眼点で発信するインスタが人気。著書に『水谷妙子の片づく家 余計なことは何ひとつしていません。』(主婦と生活社)他。

片付くと暮らしは快適になる

実はもともと片づけが大の苦手だった

13年にわたって会社員生活を送った後、整理収納アドバイザーに転じた水谷妙子さん。勤務した無印良品での経験が、この仕事に結びついたと語りますが、実は水谷さん、もともとは片づけが大の苦手だったのだそうです。
「私は新潟の米農家で育ちました。田舎は敷地も広く、しかも母が兼業主婦だったこともあり、子どもの頃から片づけをした記憶がほとんどありません。それで大学進学で一人暮らしを始めたとき、自分がまったく片づけができないことに気がついたんです」
友達が家に呼んでくれる一方で、誰も家に呼べない。そんな日々を送っていた水谷さん。就職し、結婚して、どうにかこうにか片づけにも奮闘していたと言いますが、とうとう限界が訪れます。最初の子どもを出産したときでした。
「片づけられずに、家の中がどうにもならなくなってしまって、半分育児ノイローゼのようになりました」
そこに手を差し伸べてくれたのが、水谷さんの夫でした。家事を分担してくれるようになります。最初から「完璧」というわけではなかったものの、心身ともにラクになったのを実感したと言います。
そして第二子が生まれたとき、水谷さんはひとつの決断をします。
「自分の暮らしのために、お片づけのプロにお願いしてみたんです」
すると、暮らしがガラリと変わったのだそうです。

世の中の情報を真似ても、快適にならない

すでに一人、子どもがいるにも関わらず、第二子の子育てのほうがラクだった、と語ります。
「家が整っていることが、こんなに自分の暮らしを変えるのか、と実感しました。何がどこにどれくらいあるか。自分が何をしなければいけないか。それがはっきりわかるようになったんです」
暮らしはスムーズになり、第三子も誕生。このときに浮かんだのが、片づけのサポートを仕事にすることだったといいます。
「無印良品では、お客さまがどんな暮らしをされているのか、観察させてもらう仕事もしていました。実際に訪問した家は130軒以上にもなります。そこで気づいたのは、多くの方が片づけに悩んでおられることでした。実際、相談されることも多かった」
片づけや収納に関する情報は、インターネット上でも書籍でもSNSでも、たくさん発信されています。しかし、それを真似ても、実は暮らしは快適になっていない、という現実を知ったのです。こうして水谷さんは会社を退職、整理収納アドバイザーの道に進むことになります。

暮らしを快適にする「片づけ5箇条」

すでに多くのファンを獲得している水谷さんの片づけ術のポイントは、表面的なことにとらわれない本質的なものであることです。形式的なものだけを真似たところで、実は根本的な課題は解決されない、と強調します。
「私自身が片づけられない人でしたから、それでは片づけられない、ということもよくわかるんです」
具体的な収納術は次回から紹介していきますが、取材で聞いた水谷さんの話を「暮らしを快適にする片づけ5箇条」に、まずはまとめてみました。

1.形や見た目から入ってはいけない 紹介されているグッズや収納用品を購入すれば、きれいに片づけられるとは限りません。むしろ、悪い影響を与えてしまう可能性があると言います。
「例えば、すっきり見せるためにお洒落なボックスを買う。パッと見は、きれいに見えます。しかし、ボックスに入れてしまえば、何がどこにどのくらいあるのか、把握ができません。すでにあるのに、また買ってしまったり、必要なものがないことに気づけなかったり。暮らしの課題が、実は解決できないことが多いんです」
きれいにはなっても、快適にはならない。むしろ、必要なものをどこにしまったのかわからなくなったり、無駄なものを買ってしまって、ストレスを生みかねない。形や見た目から入ってしまうと、「見えなくなる収納」と化してしまいかねないということです。

2.続けられないことはやってはいけない 見た目を美しくするために、よく取り組みが推奨されているのは、例えばラベルライターを購入して、きれいな印字を貼っていくこと。これもお勧めしない、と水谷さん。
「みなさん、最初は頑張って使おうとするんです。でも、やがて面倒で使わなくなります。大事なことは、みんながわかるようにすることですよね。そのためになぜ、ラベルライターが必要なのか。実際に話を聞いたことがありますが、ラベルライターさえ買えば、すべてうまくいくと思っていたそうです。でも、そんなことはないんです」
家族みんなにわかるようにするには、マスキングテープに手書きでも十分。これなら、さっさとすぐに誰でもかけます。片づけは一生続きます。面倒なことは継続できない。無理をしてはいけないのです。

3.どんな暮らしをしたいのか、から離れてはいけない 片づけを始める前に、実は必ずやらないといけないことがある、と水谷さん。それは、どんな暮らしをしたいのか、をはっきりさせることです。
「同じキッチンの整理にしても、20分以内に調理をすべて済ませたい、という人と、じっくりキッチンで料理やお皿にこだわりたい、という人では同じキッチンにはならないんです。どんな暮らしがしたいのか。何がどうなっていたら快適なのか。逆に、どんなことが嫌なのか。それを理解しておかないと、片づけは進められません」
これは家族も同様。一人ひとりに、こんなふうに暮らしたい、があるはず。だから、どんな空間を作りたいのか、家族会議で話し合うことが大切だ、と語ります。
「ゴールが見えなければ、ゴールに近づけないですよね。方向性でも構わない。一人ひとり、すぐには浮かびませんが、聞かれたら考えるようになります。まずは、それぞれが自分を知る、ということ。方向性が見えてくることで、みんなが快適な暮らしに近づけるんです」

4.ひとりで背負ってはいけない 水谷さんのもとに依頼が来るのは、多くが家族の中のお母さんだと言います。しかし、水谷さんがアドバイスするのは、ひとりで背負わないことです。
「どうしてラベルライターをお勧めしないのか。それが、お母さんだけの仕事になってしまうからです。そうすると、お母さんが、整理も含めて、常にすべてをやらないといけなくなります」
一方で、私がやったほうがやっぱり早い、とお母さんがすべてを取り仕切ってしまうことも少なくないそうです。
「これでは、お母さんに負担がかかりっぱなしです。そして、お母さんだけが疲れてしまう。大事なことは、家族みんなが片づけをできるようになることなんです」
7歳、5歳、3歳のお子さんを持つ水谷さんですが、子どもたちは自分たちのおもちゃを、自分たちで片づけます。小さな子どもだって、できるようになるのです。

5.「1軍」「2軍」の発想で不適切にモノを増やしてはいけない 片づけられない大きな要因のひとつに間違いなく挙げられるのが、モノが多過ぎることです。家族3人なのに、どうしてフォークが常に10本、入ってなければいけないのか。食器棚にびっしり積み上げられたお皿が必要なのか。一事が万事でいろんなものが積み上がり、とても片づけられない、整理ができていなくて使いにくくてしょうがない事態に陥ってしまいがちです。
「かといって、捨ててしまうのはもったいない。そう思われるのは、仕方がないと思います。実際、使えるわけですから。そこでお勧めしているのが、1軍、2軍に分けることです。いつも使うものは1軍。あまり使わないものは2軍。2軍はあまり使わないわけですから、別のところにしまっておいても実は暮らしに影響はありません。そして常時入れておく1軍が適切な量になれば使いやすくなり、とても快適になります」
中には、これはもう使わないだろう、と思えるものもあります。それは「戦力外」。「1軍」「2軍」を見極めようとすると、「戦力外」も見えてくるそうです。

次回は、リビングダイニングと⼦どものスペースについて、⽔⾕さんの収納術を詳しくお聞きします。

取材・文:上阪徹
兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスに。幅広く執筆やインタビューを手がける。著書に『成城石井 世界の果てまで、買い付けに。』(自由国民社)、『職業、挑戦者 澤田貴司が初めて語るファミマ改革』(東洋経済新報社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『超スピード文章術』(ダイヤモンド社)他多数。
Webプロデューサー・編集:丸山香奈枝
撮影:刑部友康